◼︎鈴木大拙って誰?
先日、金沢を訪れる機会があったので予てより行きたいと思っていた「鈴木大拙館(すずきだいせつかん)」を訪問しました。
館名になっている鈴木大拙は、ご存知の方も多いかもしれませんが世界的に名を知られた仏教学者で、「禅」という概念が海外に広がっていく上で重要な役割を果たした方です。
昨年の夏、鈴木大拙著の「禅」という本を読んだ上で鎌倉の禅寺で座禅会に参加するというミーハー活動をしたことがありますが、なかなかそんな簡単に理解できる世界ではなかったことをよく覚えています。
しかし禅寺でただ座禅を組んで自らの呼吸に集中するという時間は、都市部で忙しなく生きている我々にとっては非日常的な時間で、なるほど海外でも受け入れられるのも納得といったところでした。(少し意味合いは変わっていますが最近はマインドフルネスとかよく聞きますよね。)
◼︎誰が設計した建築なの?
さて本題の鈴木大拙館についてですが、この建築は「谷口吉生」という建築家によってデザインされました。
「谷口吉生」といえば、ニューヨークの「MoMA」、国立博物館の「法隆寺宝物館」、「ホテルオークラ改修計画」など国内外を問わず幅広く活躍している建築家です。
最近だと「GINZA SIX」の外装デザインとかも携わったりしてますね。
コンクリート、金属、石材などの材料の素材感を十分に活かしながらそれらを非常にミニマルなディテールで納めた美しい建築をデザインする建築家だと思います。
私も学生の頃から憧れていた建築家の一人で、大学に講義にいらっしゃった時はワクワクしながら話を聞きに行きました。
いかにも建築家然とした風貌で非常にカッコいい方でした。
講義では自らの作品について色々と解説して下さったのですが、1番よく覚えているのは、「とりあえず建物の前に水盤があれば建築が美しく見える」というビックリ発言だったりもします。
語弊のないように補足しますが、限られた敷地の中にイニシャル及びランニングコストのかかる水盤を設けることを施主に納得してもらうことがいかに大変か、実務者としては本当に敬服するばかりです。
また、ただ水盤を作っただけで建物が美しくなるわけもなく、その類稀なバランス感覚あってこそのデザインだと思います。
話が逸れましたが、鈴木大拙館はそんな谷口吉生のデザインが存分に活かされた建築だと思います。
◼︎どこにあるの?
立地としては金沢駅からバスと徒歩で20分ほど。
かの有名な21世紀美術館のほど近くにあります。
私が訪問した時も21世紀美術館はものすごい人だかりでしたが、鈴木大拙館は程よい混み具合。
こっちにも良い建築あるのに…とほくそ笑みながら楽しむとなおよし思います。
◼︎どんな建築なの?
建物の主要部は展示室2部屋と「思索空間」で構成されています。
受付で入館料の300円(やすい!!)を支払い長いアプローチを抜けて展示室に入ります。
写真撮影禁止なので内部の様子はお見せできませんが、主に鈴木大拙の遍歴と著作、思想の紹介という内容です。
この展示コーナーでふむふむと鈴木大拙についての知識を得たり禅についての理解を深めた後にたどり着くのがこの建物のメインディッシュとも言える「思索空間」です。
思索空間と呼ばれる部屋は水盤に浮かぶように建物の中心に佇んでいます。
(やはり水盤が登場するあたり谷口さんという感じですね。)
内部には畳表が張られた椅子が並べてあるだけで他には何もありません。
何もないのがこの部屋の大切な点です。
ただただ物思いに耽るのもよし、もはやなにも考えなくてもよし。
私は椅子に腰掛けたり、胡座をかいたり、寝転んだりしながらただ目を閉じて過ごしたのですが、禅寺での経験が思い出されたりしてのんびり心を落ち着けることができました。
訪問した日は雨が降っていたのですがそれがまたこの部屋の素晴らしさを際立てていました。
雨垂れが水盤を打つ音、風が庭の柳を揺らす音、遠くで雷が鳴る音…
普段の生活ではノイズとして処理してしまうような様々な音を、1つずつ拾い上げて身体全体で感じるとることができました。
心の澱のようなものが抜けていくような感覚で、この場所であと何時間でも座っていたいとさえ感じる空間でした。
諸行無常の世で、自他の区別なく森羅万象に流れる仏心に近づく。
言葉で言われても直ぐには理解しがたい禅の思想を、少しだけ直観として捉えることができたように思います。
◼︎おわりに
「○○記念館」というと、どうしても膨大な資料や著作などでその人の功績を伝えるような構成にしてしまいがちです。
もちろんそれが悪いわけではありませんが、資料をもとに「頭」で理解するより、体験として「身体」で感じた方が速く、深くその人の思想を理解出来ることもあります。
そういった捉え方をすると、この鈴木大拙館はたった1つの空間で鈴木大拙の思想を非常に分かりやすく伝えています。
建築設計やデザインの面白いところはそういう部分にあったりするのかなと、この業界の端っこに属する者として思っています。
金沢にお立ち寄りの際は是非訪れてみて下さい。
私ももう一度訪れてみたいと思っています。次は、雨の降る夜にでも。